はじめに
「祭り」それは、それぞれの地域という土壌が育ててきた文化の集大成されたものであり、それは、その土地に住む人々の永年にわたって培ってきた心意気が形として現われ出たものの一つであるともいえる。
祭りの「屋台」一つをとって見ても、建築・彫刻・漆塗り・飾り金具・だしもの(屋台に乗せる飾り人形)などの総合された芸術作品であり、さらに、それに大小の太鼓・よこ笛・すり金によるお囃子の音楽、法被や提灯のデザインが加わる、それから忘れてはいけないものに「掛け声」もある。屋台を引き回したり練ったりするときのその土地独特の掛け声である。屋台を動かす人々のエネルギーの結晶である、この掛け声によって「静」の作品が「動」の作品となって人々の心をより強烈に揺り動かすものである。
ここ、遠州森町に伝わる祭りという伝統文化を、正しく受け継ぎ、さらに盛んにしていきたいという願いから、二十年以上にわたり写真を中心に資料集めをしてきたものの中から、平成3年に「遠州森の祭り、屋台物語り」として本にまとめた。
「森の祭り」というのは、森町の三島神社を中心にした11月1日〜3日に行なわれる祭りの固有名詞であり、本の内容もそれに合わせたものであった。
しかし、森町ではその外にもまだまだたくさんの祭りが行なわれ、屋台が引き回されるものも多い。
今回は、「森の祭り」以外の祭りを「遠州森町の祭り」として、「屋台物語り」をまとめた。本書は「北の巻」として、森町天方地区・三倉地区(=泉陽中学校区)の屋台についてまとめ、森町飯田地区・園田地区・一宮地区(=旭が丘中学校区)は「南の巻」として次回にまわすことにした。
祭りに引き回される屋台を見物するのもいい、引き回しに加わればさらにいい、しかし、一台一台をじっくり見て回るのもまた楽しいものである。
「どんな彫刻がつけられているか。」「何が彫ってあるのか。」などと見ているうちに、彫刻師たちの心意気が伝わってくるし、屋台づくりにかかわった腕自慢の職人さんたちの心も伝わってくる。さらに、大変な苦労、努力を重ねながら自分たちの屋台を完成にまでもっていったそれぞれの町内の人々一同の心意気も伝わってくるものである。こうした中から屋台を大切にする心、ひいては代々伝えられてきた祭り、さらにはその地域、ふるさとを大切にする心も育ってくるのではないだろうか。
内容、文章等大変に不備な点が多くあると思うが、いろいろとご示唆いただければ幸いである。
平成5年10月
森町天宮 岩本雅志
出典:北の巻 p.1(別ファイル)(書き起こし・未校正)
あとがき
「祭り」が好きだ、特にふるさとの祭りは。そして、それらをいつまでも大切に伝えていってほしいものだ。そんな気持ちで写真を中心に資料集めを始めて二十年を数年越えた。それらの中から、屋台や屋台彫刻の画題についてを中心にまとめてみた。
画題は、中国や日本にむかしから伝わる話・神話、歴史上の一場面等がそのほとんどであるが、それらは伝承されている間に変化してしまったり、あいまいになったり、創作と史実がいっしょになってしまったりして不確実なものが多い。それは、調べる本によっても記述内容がかなり異なっているということからもよくわかる。その中から、不十分な知識のまま独断と偏見で選んで書き記したということをまずお断わりしておく。
写真を写していて困ることがいくつかある、一年に一度のお祭りの時しか写せないし、万一、雨でも降ればまた一年待たなければならない。また、たといい天気であっても提灯や飾りもののために彫刻がかくれてきちっと見えないことも多い。けれども、なんとかして写そうと苦心している時、親切に声をかけて手助けをしてくれた方々も何人かいて、本当に助かった。
この冊子をまとめることができたのは、各地区でいろいろと教えてくださったり、メモを出してくださったりした方々のおかげでもある、ここに心から感謝をしたいと思う。また、三浦末氏(向天方)・中山亮策氏(河原町)・安間紀雄氏(大鳥居)・早瀬宏氏(浜松市)・栩木守氏(浜松市)をはじめ多くの方々からお教えをいただいたり、励ましをいただいたり、資料をいただいたりしたこともここに記し感謝の気持ちを表わしたいと思う。
神社関係の資料は、昭和59年度森町教育委員会主催の「森町少年ふるさと運動」において、鈴木利男氏を指導者にしてまとめた冊子「森町のお宮」をもとにまとめさせていただいたこともおことわりしておく。
神社・祭礼行事・屋台概説等については、調査の時、お教えいただいた人数等に限度もあり、まだまだ調査不十分なところが多くあるのではないかと思う。まちがい、不十分な点、祭りの資料等ありましたらぜひお教えいただき、今後、より正確なもの、よりくわしいものに改善していきたいと思っている。
この冊子をきっかけにして、「祭り」を通して、ふるさとのよさをよりよく知り、大切にしようとする人が一人でもふえることを念願としている。
最後に、彩光堂印刷の北川耕二氏にも大変にお世話になったことも記しておきたい。
追記 屋台や祭りについて数多くのお教えをいただき、折りにふれいつも励まして下さった三浦末氏が、本冊子印刷寸前に亡くなられ、この冊子をご覧いただけなかったこと大変残念であった。屋台や、祭りの大切さを熱っぽく力説していた氏の、ご冥福を心より祈りたい。
(冊子の文中で、お名前の敬称を略させていただいたこと、失礼をお詫びする。)
(「遠州森町の祭り 屋台物語」の<南の巻>飯田・一宮・園田地区を次回に発行したく、調査・編集を進めている、いろいろとお教えくだされば幸である。)
出典:北の巻 p.110-111(書き起こし・未校正)。「栩木守」は原本の字。「たといい天気」は原本のまま(脱字の可能性)。解説は p.110 から p.111 へ続く